「エリーの宝物」
「48」
「龍とカエル」
「アーロン」
これらに繋がる始まりの物語です。
『始まりの物語』
ある森にジョセフィーヌという女の子がお母さんと二人で暮らしていました。
ジョセフィーヌは純粋で心優しく、森 の動物達はみんな彼女が大好きでした。
ジョセフィーヌには親友のサルがいました。
そのサルはジョセフィーヌが小さい頃からずっと一緒で、いつも夢や悩みを話していました。
サルは話すことは出来ないけれど、いつも彼女の話をじっと目を閉じて聞いてくれました。
ある時、ジョセフィーヌはサルに言いました。
「いつかたくさんのバラを育てて、お母さんを喜ばせたいなぁ。お 母さんはバラが大好きなのよ。」
ジョセフィーヌはお母さんが大好きでした。
すると翌日。
不思議なことに、家の庭にたくさんのバラの花が咲きました。
ジョセフィーヌはビックリして庭に飛び出しました。
「お母さん、すごいよ!庭一面にバラが咲いているの!ほら、 見て。綺麗でしょう。」
お母さんはベッドから庭を見て嬉しそうに言いました。
「おやまぁ。こんな奇跡みたいなことがあるんだねぇ。」
ジョセフィーヌはお母さんの笑顔を見て、嬉しくて嬉しくて、神様に感謝しました。
お母さんは重い病気で、ずっとベッドに寝たきりでした。
お母さんのあんなに嬉しそうな顔は久しぶりでした。
ジョセフィーヌは、この奇跡をすぐにサルに話しました。
バラがどれほど美しかったか、お母さんがどれほど喜んだか。
時を忘れて嬉しそうに話す彼女の横で、サルは微笑みながらじっと目を閉じて聞いていました。
ある時、ジョセフィーヌはお母さんに聞きました。
「何か食べたいものはある?」
すると、お母さんは言いました。
「そうだねぇ。あの輝くバナナをもう一度食べてみたいねえ。」
お母さんは懐かしそうに言いました。
「あれはまだお前が小さかった頃だねぇ。山で足を滑らせて崖 から落ちてしまった事があっただろう。
あの時のバナナさ。」
ジョセフィーヌは小さい頃、崖から落ちてしまった事がありました。
お母さんが崖下を必死に探すと、ジョセフィーヌは輝くバナナの山の上で横たわっていました。
ジョセフィーヌは奇跡的にケガ一つありませんでしたが、どうして助かったのか・・・
崖から落ちた時の記憶がありませんでした。
まだ小さいその手には一際キラキラと輝くバナナを持っていました。
お 母さんはその良い匂いのする輝くバナナを食べてみました。
すると、この世のものとは思えないほど美味しかったのです。
持って帰ろうと他のバナナをもごうとしましたが、固くて一つも取れませんでした。
「今ではもうどこにあるのかも分からないけど、もう一度だけ食べてみたいねぇ。」
ジョセフィーヌはその話をサルにしました。
「私があの時の事を覚えていたら、輝くバナナをお母さんに食べさせてあげられるの に。」
すると翌日。
家の庭に、あの輝くバナナが山盛りに置いてありました。
ジョセフィーヌはビックリして庭に飛び出しました。
「お母さん、見て!輝くバナナが庭にたくさん!また奇跡が起きたんだわ。さぁ、食べてみて。」
ジョセフィーヌがバナナに手をかけると、簡単にもげました。
お母さんは一つ食べてみると言いました。
「あぁ、なんて美味しいんだろう。あの時お前は食べなかっただろう?だから一度食べさせたくてねぇ。さぁ、お前も食 べてごらん。」
ジョセフィーヌも一つ食べてみました。
すると例えようもないほど甘くて良い匂いのするバナナでした。
でも、どこか懐かしい感じがしました。
お母さんは感激するジョセフィーヌを見て嬉しそうでした。
ジョセフィーヌも嬉しそうなお母さんを見て、神様に感謝しました。
ジョセフィーヌは、この奇跡をすぐにサルに話しました。
バナナがどれほど美味しかったか、お母さんがどれほど喜んだか。
時を忘れて嬉しそうに話すジョセフィーヌの横で、サルは微笑みながらじっと目を閉じて聞いていました。
ある冬のこと。
病気のお母さんはベッドで最後の時を迎えようとしていました。
「私がいなくなっても、どうか幸せになっておくれ。それがお母さんの最後の願いだよ。」
ジョセフィーヌはこらえきれずに泣きました。
どんなに悲しくても、お母さんの前では笑っていようと決めていたのに、笑いながら泣き ました。
「大丈夫よ。私はお母さんと一緒にいられてずっと幸せだった。一人になっても、きっと幸せになるわ。」
ジョセフィーヌは独りぼっちになってしまいました。
そしてお母さんの最後の願いの話をサルにしました。
「こうして心から話せるのは、あなただけになってしまったわ。
今までは特別なことがなくてもずっと幸せだったのに、今はどうしたら幸せになれるのかも分からない。」
ゆっくりと雪が降る中、彼女の横で、サルはじっと目を閉じて聞いていました。
そして、翌日。
サルはジョセフィーヌの前から姿を消しました。
サルが姿を消して、季節が春へと変わった頃。
ジョセフィーヌは森で一人の男性と出会いました。
不思議なことに、彼はまるで昔からの友達みたいにジョセフィーヌの事を良く知っていました。
ジョセフィーヌは出会った瞬間から彼のことが好きになりました。
彼のことは何も分からなかったのに側にいると心が安らいだのです。
それから二人は、いつも一緒でした。
庭にもう何度目かの、たくさんのバラが咲き誇る季節の頃。
ジョセフィーヌは最後の時を迎えようとしていました。
病気やケガではありません。
いつのまにか二人が出会って から80年が過ぎていました。
歳をとり寿命を迎えたジョセ フィーヌに彼は優しく言いました。
「僕は君に一つだけ秘密にし ていたことがあるんだ。」
ジョセフィーヌは目を閉じて 微笑みながら聞いていました。
「実はね…」
そう言うと彼の姿は、あの親 友のサルへと変わっていきました。
でもジョセフィーヌに驚いた様子はありません。
「あなたはいつも私を見守ってくれていたのね。お母さんの最後の願いをあなたが叶えてくれたのよ。」
サルは照れ臭そうにじっと目を閉じて聞いていました。
そしてサルの声は直接ジョセフィーヌの心へ響きました。
「黙っていてゴメンよ。僕は神様なんだ。
でも僕は君と普通の人間の恋人として一緒に いたかった。
君に恋をしてずっと側にいられて嬉しかった。
僕はいろいろな魔法が使えるのだけど、寿命だけは変えられない。
僕に何かして欲しいことはあるかい?」
「いいえ、何もないわ。あなたと過ごせて私は本当に幸せだったもの。」
「替わりに君に一つ魔法をかけよう。」
するとジョセフィーヌの左目が緑色になりました。
「それは目印だよ。
何度生まれ変わっても、その緑 色の目が約束の目印。
君は僕にたくさんの幸せをくれた。
だからいつか君が何かを願う時、僕がその願いを叶えてあげよう。」
「嬉しいわ。じゃまたいつか会えるのね。」
そう言うとジョセフィーヌは微笑みながら 眠るように目を閉じました。
こうして二人の物語は終わったかのように見えます。
でも、この緑色の目をめぐる 物語はこの先、再びめぐり合うこととなります。
でもそれは、また別のお話。
森の奥。
緑色の目をした小さな女の子が、黒装束の男性に話しかけています。
「お父さん、あの大きな動物は、なあに?」
「あれはね『ライオン』って言うんだよ。この森の王様さ。」
そう言うと「お父さん」と呼ばれた黒装束の盗賊は、緑色の目を細めながら娘の髪を撫でてやりました。